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"あご"は宙ぶらりん…顎位の話

「顎位」(がくい)という言葉をお聞きになったことはあるでしょうか。
顎位とは文字通り、顎(あご)の位置のことをいいますが、歯科では顎の位置という意味合いだけではなく、上顎に対しての、下顎の三次元的な位置を指します。
ちょっと難しい話になりますが、順を追って説明します。



人は、歯と、顎の骨、顎関節、筋肉があってはじめて咬むことができます。
咬むこと以外にも、「飲み込む」「喋る」といった顎周囲の運動も、同様に、これらの組織が担っているところです。

咬むということは、上の歯と下の歯を合わせて、食べ物を飲み込みやすいように、すり潰すということです。
すり潰すといっても、その力は、60kgもの力をかけることができる強大なものになります。


では、その咬む力はどこからくるのでしょうか?
上の歯は上顎骨(じょうがくこつ)という骨に植わっています。そして下の歯は下顎骨(かがくこつ)という骨に植わっています。


この2つの顎の骨は、頭蓋骨の一部である側頭骨(そくとうこつ)を介して顎関節(がくかんせつ)という軸部で繋がっています。
この軸の部分には“遊び”があるため、実は、顎は前後左右に自由に動かすことができます。そのため、顎はとても複雑な動きができるようになるのです。


さらに下顎骨は、その周囲にある頭蓋骨や頸椎(けいつい)などの骨と、多くの筋肉で繋がっているため、それぞれに繋がった筋肉群が脳からの命令を受けて、協調しあって、食べ物のさまざまな硬さや大きさを感知し、みごとに砕き潰すことができるのです。
咬むという行為のためには、左図にみられるように、これだけの筋肉と骨が関わっているのです。

これらの組織の総称を「顎口腔系」(がくこうくうけい)と呼びます。
そして「顎口腔系」は「顎位」(がくい)という顎の位置を共有しながら機能しています。


では「顎位」とは何でしょうか。
これまで説明したように、下顎と繋がっている筋肉は上顎骨だけではありません。ですから、このネタの最初に書いた「上顎に対しての、下顎の三次元的な位置」という解釈ではなく、「頭蓋骨を中心とした体幹に対しての、下顎の三次元的な位置」という解釈のほうがより正確です。

難しい話が、ややこしくなってしまいましたか?


顎位を決める要素は以下の3つがあります。
1.咬合位(こうごうい):上下の歯が咬合しているときの顎位
2.顆頭位(かとうい):顎関節が解剖学的に安定しているときの顎位
3.筋肉位(きんにくい):下顎に関係している筋肉群すべてに緊張がなく安静しているときの顎位

さらに難しくややこしくなったように思えますが、最初から順を追って説明した、咬む力の伝わり方をイメージすれば解りやすいかと思います。
ちなみに「顆頭位」という名前は、下顎骨の関節の場所の名前「顆頭」(かとう)からきています。関節の名前が由来ですから、別名「関節位」とも言います。


さて、この「顎位」ですが、人間の成長発達の過程で、どのように作られ、決められていくのでしょうか。

実は、咬合位、顆頭位、筋肉位は、それぞれ発生が異なり、別々に作られていきます。
そのため、この3つの「位置」が完全に一致することはまずありません。
しかし、それでは顎位がバラバラで定まらないから、ごはんが上手に食べられないのでは?…はい、確かにその通りです。

でも、心配はいりません。
なぜならば、脳が咬合位、課頭位、筋肉位、それぞれの状態を把握しながら、常に「3つの位置」のバランスを取り続けているからなのです。
筋肉の1つ1つに筋力の強弱を指示し、顎関節を軟骨上でうまくスライドさせ、歯に対しては、「歯ぎしり」などで噛み合わせの余分な部分をすり減らし、少しでもスムーズに咬むことができるように調整をし続けているのです。
このバランシングシステムは絶妙で、なんと10μm(マイクロメートル)レベルでの調整が常に行われていることになります。
歯にほんの少し物が挟まっても、とても気になりますよね?そのくらい、口の中は常に繊細な状態なのです。

このように脳が「顎位」を調整をするために、顆頭位、筋肉位、咬合位にはある程度の遊びの部分があることから、結果として、顎は“宙ぶらりん”の状態になっているのです。

2014.01.01更新