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歯科レントゲンは安全なのか?

福島原発事故の後、患者さんから「放射線を受けたくないので、レントゲンは使わないでください」とお願いされたことがあります。
レントゲン(X線)は、直接、見ることのできない体の中の状態を詳細に映しだし、診断することのできる、とても重要な器具です。
しかし放射線に対しての風評が大きくなっていたその時、不安に思うお気持ちはよくわかりました。

歯科では一般に、顎全体を観察することがのできるパノラマX線装置がよく使われます。
歯だけでなく顎骨や、顎関節、鼻腔の状態まで診断することができます。
パノラマX線装置パノラマX線装置で撮影したもの

また、一部分を詳細に観察したい時には、デンタルX線装置を用います。
これはとてもシンプルな構造で、この黒いコーンの中から放射線が放出され、その方向にフィルムを置いて、感光させるというものです。
デンタルX線装置デンタルX線装置で撮影したもの

これらの歯科用X線装置は、15年ほど前にデジタル撮影技術が開発され、日々、飛躍的に進化をしています。
従来のフィルム式のものに比べ、より感度を上げることによって放射線量を少なくすることができるだけでなく、現像液などの廃液が出ないため、環境にも良いことが特徴です。
ゆう歯科クリニックでは、2000年にCCD型のデジタルX線装置をいち早くに導入し、今日に至るまで、診断に活用しています。

線量計さて、話は最初に戻りますが、これらのX線装置が、いったいどれだけの放射線を出しているのか?
ネットなどでいろいろ調べてみましたが、驚くことに、桁が違うほどバラつきがあるのです。
どの数字を信じていいのか…
ということで、どうせなら自分で計ってしまおう!と、線量計を買っちゃいました(^O^)/
ちょっと高価でしたが、より精度の高い「シンチレーションタイプ」にしました。

そしてパノラマX線装置の顎を当てる部位に、シンチレーションカウンターを付けて、通常の方法で撮影しました。
結果、10.86μSv。全国歯科大学・歯学部附属病院診療放射線技師連絡協議会が公表した値に近いものでした。

では、この10.86μSvとは、いったいどのくらいのものなのか?
ということで、歯科用レントゲン装置と、医科の装置、自然放射線量を比較したのが、このグラフです。

一番上の棒が“世界自然放射線量/年”です。1年間に自然から受ける放射線量です。
その下が日本の年間量平均が1500μSv、名古屋が376μSvですから、世界平均から比べるとかなり少ないですね。
これらに対して、その下に3つ、医科で用いられる代表的なレントゲン診断で受ける線量を載せました。
そしてこの下の2つが歯科用レントゲン診断装置です。パノラマX線装置で34回撮影すると、年間の自然放射線量に相当することになります。

ちなみに、ゆう歯科では2年に1回程度の撮影が、診断に適当であると考えています。

では、体に影響が出るのはどのくらいの線量なのか?

これが人体に影響を及ぼす放射線量です。

一番下に、先程のグラフで一番上にあった世界自然放射線量を重ねました。横軸の単位がμからmに変わっていることに注意してください。いかにに大きな数字であるかが解ります。
500のリンパ球減少が確定的影響、100の健康に影響:がんのリスクが0.5%上昇する線量を確率的影響と呼んでいます。
一般人については年間1mSv、放射線作業従事者には任意の5年間の年平均で20mSv、ただしどの年も50mSvを超えないとしているそうです。
ちなみに、福島第一原発3号機の原子炉建屋内で観測された毎時線量は1.3Svでした。

この度の原発事故は、皮肉なことに、日本国民が被爆に対する感心を高める結果になりましたが、医療で用いられる放射線に対する理解を深めるきっかけになったとも言えます。
この記事を通じて、医療で用いられる放射線量が健康に影響を及ぼすほどのものではないことを、ご理解頂けたら幸いです。

2012.11.24更新