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とうとう正体がわかったぞ!

私たちは、誰もが寝ている間に「歯ぎしり」をしています。

歯のすり減り、ヒビ割れ、ぐらつきなど、歯ぎしりが原因だと思われる症状は少なくありません。
また、頭痛や肩こりといった症状も、寝ている間の「歯ぎしり」が原因であることもあります。

そんな症状にお悩みの患者さんが来院され、寝ている間に「歯ぎしり」をしている可能性をお話ししますと、「そういえば、歯ぎしりで目が覚めたことがあります」「家族に『夜中にギリギリ、キュッキュ、いってるよ』と言われました」というかたもいらっしゃれば、「私は口を開けて寝ていることが多いから、歯ぎしりはしていません」というかたもいらっしゃいます。

でも実際に歯を診てみると、自覚の有無に関わらず、多くのかたの歯に「歯ぎしり」特有のすり減り跡や、ヒビ割れ、ぐらつきなどが見られるんです。
私の大臼歯も、すり減りで内部の象牙質が露出してしまっています。

(クリックで拡大)

このように、歯の診断を行う上で無視できない「歯ぎしり」ですが、実は、歯科医師がその実際の「歯ぎしり」の様子を見ることはできません。

就寝中にずっとそばで寄り添って咬み合わせを観察することなど、非現実的ですし(私が一番中 横にいたら安眠できませんよね…)、そもそも、ギシギシ音の出ない「くいしばり」は、やっているかどうかさえもわかりません。
それこそおやすみ中に寄り添って、頬に手を当てていることになります。(私が一晩中、あなたの頬に手を当てていたら…)

ですから、これまでの歯科治療では、「歯ぎしり」はその歯などの痕跡から「あるだろう」という仮定で診断を進めてきました。
「歯ぎしり」の治療は、咬合調整やスプリント療法でそれなりの効果を上げてきていましたが、お口の中の状態から仮定で判断した診断というところに、私はずっと引っ掛かりを持ち、苦しんできました。

こうした状況の中、2020年4月、センサーの専門メーカーであるロジカルプロダクト社と歯科業界大手のGC社が連携して、超小型の筋電計の開発に成功し、それがなんと!健康保険診療にも組み込まれたのです!!
わかりやすく言うと、「歯ぎしりの検査に対して保険が効くようになった」ということです。

「とうとう歯ぎしりの正体がわかるぞ〜!」
歯科医師になって35年。
日々の臨床で、姿なき「歯ぎしり」に散々 苦しめられてきた私にとって、その実態を目で見ることができるなんて…あぁ、もう夢のようです。

さて、その夢を実現させた筋電計システムのセンサーは、本当に超小型で、将棋のコマぐらいの大きさをしています。
使い方は簡単で、電極のシールを1枚貼り、頬に付けて寝るだけ。
寝ている間に測定が完了します。
出かけなくていいし、着替えなくてもいいし、測定前の食事制限もありません。
ご自宅で、誰でも、いつでも、気軽に計測できます。

早速、ワクワクしながら筋電計を装着してみました。(モデルは私)

一晩 就寝してデータを取り出し、PCで解析した結果がこれです!

(クリックで拡大)

「歯ぎしり」は、1時間あたり4回以上の咬みしめがあると「歯ぎしりをしている」と診断されます。
私自身、自覚症状もあり「歯ぎしりをしているだろう」と予想はしていたのですが、結果は1時間あたり10.6回。
え?10.6回?4回以上で立派な「歯ぎしり」判定なのに?
…驚きです。
自分自身が「歯ぎしり重症患者」だったのです!

私事ではありますが、一昨年、奥歯が割れたことがありました。
おそらく、「歯ぎしり」が原因かと思われます。
もっと早くこの検査結果を知っていれば、歯を保つ手段も考えられたのではないか…とたいへん悔やまれます。

(もちろん、筋電計の測定による診断で、全ての歯の健康状態が保たれるというわけではありません)

さて。このウェアラブル筋電計は、実はもっと詳しいデータまで記録しています。
これは、1回の睡眠中で最も激しく「歯ぎしり」をしていたときの波形です。
2分間に、大小9回もの「歯ぎしり」をしている様子がわかります。
そして長いものは15秒も持続しています。

(クリックで拡大。←→で次の写真へ)

こちらは起床して、お昼ごはんを咀嚼しているときの波形。
「歯ぎしり」に比べて、力がかかっている時間(赤の塊りの量)が短いことがわかります。

さらに、この筋電計ではデータ詳細をCSVで記録することもできるので、イメージだけでなく、客観的に変化や比較をすることができます。

このように「歯ぎしり」が視覚化、データ化されて、どのように「歯ぎしり」の力がかかっているかはわかるようになりました。
しかし、「歯ぎしり」自体の診断は、歯科医師にとってまだ模索の段階です。
また、これらのデータから具体的な治療方法を導き出すまでには、更なる知識も経験も必要です。

診療後におせんべいをかじりながら、グラフを眺めて、ひとりひとりの症状とデータとの関係性をみつける作業が続きます。
ちょっと楽しいです。

ゆう歯科クリニック 院長 伊藤 裕章
2020.09.22更新